今朝届いた手紙を指先でつまみあげた。可愛らしいデザインの封筒に可愛らしいシールがいくつも踊っている。差出人は――過去の私。なんにも知らなくて、なんにも考えなくてよかった頃の、まっしろな私。  小学六年生の授業で未来の自分に宛てて書いた手紙だ。そういえば先生が数年後に送るとかなんとか言っていた。当時のことはよく思い出せないけれど、もうすぐ中学生という未知の世界、そして未来への期待に胸がいっぱいだったことは覚えている。書いてある内容もそんな感じで、「毎日楽しく過ごしていますか」「どんなことを勉強していますか」「好きな人はいますか」「友達はふえましたか」とか。過去の私には悪いけれど、手紙をぐしゃぐしゃに握り潰してびりびりに破り捨てたい衝動に駆られた。結局しなかったけれど、端っこは少しだけシワが寄ってしまった。  思い描いていたであろう未来とは全然違う未来を生きている。過去の私には想像もつかないだろう。今は地元を離れて都立呪術高等専門学校で寮生活をしているだなんて。    誰かの――伏黒恵の足音が近づいてきて、隣で立ち止まった気配がした。片手で足りるほど数少ない同級生のひとりである彼の足音はわかりやすい。気配も音も消せるのに、わざと私が気づけるようにしてくれている。 「それは?」 「手紙」 「誰から?」 「過去の私」  そうか、と興味なさげな彼の声が空気に溶けていく。  伏黒の隣は落ち着くから好きだ。雰囲気とか性格とか声とか、そういうのももちろんだけど、何より聞いてほしくないことは聞いてこない。それがとても有り難い。同時に、気を遣わせてしまったと落ち込んでもしまうけれど。  息を吸った伏黒が「それ」とこぼした。彼の指は私の手の中のものを差している。 「もらっていいか?」 「手紙?」 「おう」 「いいけど」  つまんでいた手紙を伏黒に差し出す。面白いこともとんでもない秘密もどこかの機密情報も書かれてはいない。ただ過去の私の無垢さに胸が痛くなるだけだ。  受け取った彼は「これで俺のもの、だよな?」と言うので頷いた。べつに今の私には必要のないものだし、過去の私という存在を直視したくなくてあとで捨てようと思っていたものだから、誰のものになっても構わなかった。  伏黒はおもむろに両手で手紙を掴んだかと思うと勢いよく破いた。真っ二つに。ぽかんとする私を前に彼はさらに細かく破いていく。びりびり、びりびり。 「いらないだろ。こんなもの」 「でも、破くって」 「オマエがしないから俺がやった」  俺のものだから俺が何したっていいだろ、と。  なんてむちゃくちゃなんだろう。小学生みたいな理屈だ。でもどうしてかな、少しだけ気分が晴れた。気分が晴れるとなんだか笑えてきた。  風が吹いて伏黒の手のひらから紙片を奪い取っていく。そうして空中を泳いだあとはひらひらと舞い落ちる。まるでこれからの未来を祝福する紙吹雪のように。 2022.10 『ju夢ワンドロワンライ』様提出