誰かの生まれた日は誰かの死んだ日だ。そんな風に思うようになったのはいつからだったか。
人々の負の感情から生み出される呪霊を祓う呪術師は、いつ、どこで、命を落とすことになるかわからない。きっと無事に誕生日を迎えるたびに、この一年もなんとか生き残れたと安堵するのだろう。そして次の誕生日も無事に迎えられますようにと、祈るように眠りにつくのだろう。
任務終わり、伊地知さんに高専まで送ってもらう道すがら、今日が何の日だったかを唐突に思い出した。思い出して、時間を確認して、焦りを覚えた。あと数時間もすれば今日が――二十日が終わる。
「伊地知さん、伊地知さん」
「はい、何でしょう」
「今日って虎杖の誕生日なの、知ってた?」
「虎杖くんの?……そういえば以前、誕生日が近いと話していましたね。お祝い、してあげたんですか?」
「……さっき、思い出して。どうしよう」
「……どこか開いてるところに寄りましょうか」
「……お願いします」
伊地知さんの好意に甘えて、最寄りのショッピングモールに向かってもらった。
さて何を贈ろうかと考えたけれど、良いものは思い浮かばなくて。フロアをうろうろ歩きながら、ふと目に入った色鮮やかな花束。――そうだ、お花を贈ろう。
閉店間際の花屋に駆け込み、拙い言葉で花束を作ってほしいことを伝えた。同級生の男子の誕生日で、困ってても困ってなくても助けてくれて、一緒にいると楽しくて、一日でも長く彼と一緒にいたいのだ、と。
店員さんが「一点、確認させてくださいね」と言うと、こちらを見て微笑んだ。
「彼のことが好きですか?」
「…………はい、とても」
――言ってしまった。どんな顔をしていたのか自分ではわからないが、店員さんのあたたかい視線を感じて恥ずかしくなった。五条先生にも伏黒にも野薔薇にさえ言っていない。勘付かれてはいるかもしれないけれど。熱くなってきた頬をどうにかしたくて手でぱたぱたと扇ぐ。店員さんは少々お時間くださいと言って離れていった。
待っている間にいつ渡そうかと考える。もちろん今日中に渡さなければ帰りにここまで寄った意味がないのだが、なにぶん誰かに何かを贈ったという経験が乏しいため、タイミングも心持ちもわからない。いつもお世話になってるお礼だとか何とか言えば、虎杖のことだから受け取らないなんてことはしないだろう。
なんて悶々と考えていると、お待たせしました!と、視界に小さな花束が飛び込んできた。水色のような青で統一されたそれは、まるで虎杖の呪力のようで。
「わ、素敵」
「喜んでもらえてよかった!」
それから店員さんは花束について説明してくれた。花の種類、本数、そしてその意味を。まるで彼に抱く気持ちをそのまま表したかのような花束を大事に抱えた。
◇
高専に戻ってすぐ、虎杖の部屋に向かう。彼が部屋にいることはラインで確認済みだった。
あとは渡すだけ。だというのに緊張してしまって、部屋の前に立ったまま動けなくなってしまった。別に告白するわけでもなし、何を緊張することがあろうかと自らを奮い立たせる。そうして、ノックしようと持ち上げた手がドアに触れようとしたそのとき、ドアが開いた。
「ほら見ろ伏黒、合ってた!こいつの足音したし!」
「なんだそれ」
部屋の中にいるらしい伏黒と話しながら、虎杖が顔を出す。ぱっと目が合うと、彼は顔を綻ばせた。
「おかえり!任務お疲れさま!」
入って入ってーと、招き入れてくれようとした虎杖に抱えていた小さな花束を半ば押しつけるように手渡した。
「……誕生日おめでとう、虎杖。いつもお世話になってるから、そのお礼」
「えっ、うわ、まじか!サンキュー!」
どこに飾ろっかなーと、嬉しそうに部屋に入っていく虎杖を見て少し安堵した。入れ替わるように出てきた伏黒にもう戻るのかと聞かれ、ちょっと疲れたからと返す。切れ長の目を虎杖に向けたか思うと、ちらりとこちらを見下ろして言った。
「あいつ、鈍いぞ」
「だろうね」
「どうする」
伏黒は優しい。気持ちも込めた意味も何もかも、虎杖に伝わらなくていいと思っている。けれど選択肢をくれたから、それならば選ぶしかないのだ。
「虎杖!」
名前を呼んで、振り向いた彼に。
「生まれてきてくれてありがとう!大好き!」
「おう!俺も大好き!」
晴れやかな笑顔の虎杖が愛おしい。抱く感情が違っても、今はこれでいい。呆れたようにこちらを見る伏黒にありがとねと言って。そして二人におやすみと告げて、自分の部屋に戻った。
願わくば、彼がこれからも幸せでありますように。数多の祝福が授けられますように。たとえ運命が彼を拒んでも、私は、私だけは彼を愛し続けるから。だからどうか、どうか最期まで虎杖悠仁の側にいさせてください。
2021.03.20