バッシュのスキール音。リリースされたボールが吸い込まれるようにリングをくぐり抜ける。そして――三井寿の呼吸が響く。  やや乱暴に拭われた額の雫が照明を反射させながら散っていく。短く切り揃えられた髪の先からも滴り落ちていく。まるでそうあるべきものだとでもいうように。この世界に神様がいるとしたら、彼の性格も才能も造形も、流す汗のその一滴までもを愛しているのだろう。そのくらい三井寿にムダを感じられなかった。  Tシャツが湿って背中に張り付いている。シューティングを始めてどのくらい経っているのだろう。数えてないからわからない。けれどわからなくていい。  どの位置からでも丁寧に、ひたすらリングに向かってシュートを打ち続ける。己が爪を研ぎ続ける生き物。  以前、そこで待たなくていいと言われたことがある。ずっと見てるのも飽きるだろ、と。まったく飽きずに眺めていた身としては、こっちのことは気にせず続けてほしいと言った。実際、毎日見てても飽きることはなく。美しいフォームが描く放物線のくりかえしは、かぎりなく儀式に近いものだと思う。  三井寿の、三井寿による、三井寿のための舞台。私はそれを見届けるだけの存在。前後左右のどこにも居場所がないから、見届けるのだ。彼の舞台を。生き様を。その命のきらめきを。    待たせたな、と声をかけられて。ぼんやりしていた顔を上げると、制服に着替えた三井寿が立っていた。 「帰ろーぜ。送ってく」  あどけない少年のように輝く笑顔で言うものだから、胸の奥がきゅってなる。まぶしい。好きすぎて苦しいってこういうことなのかな。  喉の奥から絞り出した「ありがとう」は蚊の鳴くような声だったと思う。このままでは彼と話すこともままならない。深呼吸をひとつ。ふたつ。みっつ。まだ足りない。息を吸って、そして。 「今日もかっこよかった!」  きょとんとしたあと、にんまりと笑う。 「とーぜんだろ?」  オレを誰だと思ってんだよ、と。そんなところも彼の魅力の一部だ。三井寿はきっと明日も神様に愛される。 2023.09