お誕生日おめでとう、と言うと彼は眉を顰めた。なんでお前がそれを知ってるんだとでも言いたげな顔をしている。それもそうだ、彼――三井寿と生まれた日の話なんてしたことがない。
「生徒手帳見た」
なのであっさりとタネ明かしをしてあげた。というのも、学校が違えば生徒手帳も違い、見せてほしいとねだったときに目にした数字を覚えていたのだ。五月二二日。
「だからケーキ、あげる」
彼の胸のあたりにずいと小さな白い箱を押し付けた。さっきケーキ屋で買ってきたものだ。一瞥したあと受け取ってくれた。少しだけほっとした。突っ返されたらやっぱり、ちょっとへこむと思う。そんなことをするひとではないと知っているけれど。
「わざわざ買ってきたのか?」
「うん」
「今日会えなかったらどうしてたんだよこれ」
「自分で食べた。だってそれ私の好きなやつだし」
「……そーかよ」
長い髪に隠されて、俯いた彼の表情がわからない。でも「ありがとう」が聞こえた。
彼の好物を知らないから自分の好物を選んだ。もし受け取ってもらえなくても、彼のことを思いながら食べたら間接的に祝ってることになると思って。すると「そっちは」と声が降ってきた。
「? なにが?」
「誕生日」
「私の?」
早く言えとばかりに真正面から目を合わせられて息が止まる。こういうときは目を合わせてくるの、ずるい。私をひとりの人間として見てくれてるのがわかるから、拒めない。
「知ってどうするの」
「ケーキ買って祝う」
「けっこう先かもよ?」
「覚えててやる」
「もう終わってるかも」
「それなら来年だな」
私の誕生日を祝ってくれるひとがひとり増えた。それだけのはなし。
2023.09